広島県尾道市。坂の街として知られるこの場所に、世界中の人々を笑顔にした、ある小さな物語がありました。尾道市立美術館の入り口で、7年もの長きにわたり繰り広げられた、一匹の黒猫と警備員さんによる心温まる攻防戦。その主人公こそが、伝説の黒猫「ケンちゃん」なのです。
物語の始まりは、2017年3月のことでした。当時、美術館で開催されていたのは「猫まみれ」という特別展。ガラス越しに見える猫の彫刻に興味を持ったのか、ケンちゃんは館内へ入ろうと試みます。しかし、それを優しく、けれどもしっかりと阻止したのが、警備員の馬屋原さんでした。この微笑ましいやり取りがSNSで紹介されると、瞬く間に世界中で話題となったのです。
興味深いことに、ケンちゃんが美術館を訪れるのは、馬屋原さんが勤務している時ばかりでした。馬屋原さんの勤務は特別展の期間中、年にわずか4回ほど。それにもかかわらず、ケンちゃんはその時期を見計らったかのように姿を現していたのです。やがて、茶トラの「ゴッちゃん」という相棒も加わり、二匹による愛らしい侵入作戦は、多くの人々の心を捉えて離しませんでした。
馬屋原さんは、後にこう語っています。「美術館に入りたいのではなく、遊んでほしいのだろう」と。表向きは侵入と防衛の攻防戦でしたが、その実は、猫と警備員さんとの間に育まれた、温かな交流の時間だったのです。
この物語は海を越えて広がり、美術館の来館者数は倍以上に増加。ケンちゃんたちのグッズも作られ、多くの人々に愛されました。しかし、命あるものには、いつか終わりの時が訪れます。2025年9月20日、長い闘病生活の末、ケンちゃんは静かに息を引き取りました。11月11日に美術館から訃報が伝えられると、その悲しみは世界中へと広がっていったのです。
ケンちゃんの旅立ちから時が経ち、美術館には彼を偲ぶための彫像や、ガラス扉に貼られたステッカーなど、その思い出が大切に残されています。「今でも角から現れる気がする」と語る馬屋原さんにとって、ケンちゃんは心を通わせた特別な存在でした。一匹の猫が残した温もりは、これからも多くの人々の心の中で生き続けていくことでしょう。
この訃報に対し、ケンちゃんを見守り続けてきた世界の人々は、どのような反応を示しているのでしょうか。その反応の数々をご紹介します。
RIP: Ken-chan, a black cat who became famous for repeatedly trying to enter Japan's Onomichi City Museum of Art for years, has died
— Antidepressant Content (@depressionlesss) December 9, 2025
pic.twitter.com/YQmw61FWH9
海外の反応
🙍🏽♂️ うわあああ、嘘だろ!
👩🏫 そんな風に動画を始めないでよ……猫ちゃんがコテッと倒れる姿なんてもう……涙が止まらない。
👱🏻♂️ せめて一度くらいは、中に入れてあげててほしいな。
👱🏻♀️ お願いだから、彼の短い一生の中で、せめて一度は中に入って見学できたと言って。
🙍🏻♂️ 彼は芸術を鑑賞したかっただけなんだぞ、この人でなしどもめ!
👨🏻✈️ 彼はただ、芸術を学び、鑑賞したかっただけなのに……拒絶され続けたなんて残酷すぎるよ。
👴🏻 結局、一度でも中に入れてやったのか? かわいそうに……。安らかに眠れ、美しい子よ。生涯をかけてやりたかったことを、最後までさせてあげられなくて本当にごめん。
🧒🏻 いやぁぁぁ! ねんねする前に、一度でも中を全部見せてもらえたの?
🧑🏻 追い返されても、クルッと身を翻して戻ってくるあの姿……泣けるよ。
👱🏻♂️ たかが猫一匹に、どれだけの損害が出せるって言うんだ?
👱♀️ 猫をただ入れてあげればよかったのに!
👽 たぶん中のレストランから漂う食べ物の匂いに釣られただけだろうね!
👱🏼♀️ 前世は芸術家で、自分の作品を見たかったのかもしれないね。安らかに、ケンちゃん! 来世では戻ってこれますように。
👨🎓 あいつはただ、ルオーの絵が見たかっただけなんだよ。
👱🏻♂️ たぶん有名な画家がその猫に生まれ変わってたんだよ! 自分の作品をもう一度見たかっただけなんだ。
🙍🏿♂️ 今すぐ彼を美術館に祀るんだ!
👩🎨 彼の銅像を作ってあげて!
👩🏻🦳 美術館の玄関前に彼の像を建てて、永遠に残すべきね。
👨🎨 ケンちゃんの銅像を建てるなら、美術館の『中』じゃなきゃダメだぞ!
👩🏻💼 尾道市立美術館の公式アカウントを見てみて。日本のみんながどれだけケンちゃんを愛していたかすぐに分かるわ。公式カレンダーまで販売されてるんだから……彼がいかに愛され続けているかが伝わってくるよ。
👨💻 日本と動物の組み合わせって、どうしていつもこんなに心温まるんだろうね?
👱♂️ 日本人は『いい子』を見分ける目を持ってるよ。そこは認める。
🧔🏻♂️ 補足すると、尾道にはたくさんの野良猫がいるんだ(俺も少なくとも50匹は会った)。それに、ギフトショップを見ればわかるけど、同じくらい愛されている美術館の猫がもう一匹いるんだよ。
📹🧑 知らない人のために言っておくけど、彼は最終的に中に入れたんだよ。警備員さんが何度も入れたかは分からないけど、少なくとも一度は連れて入ったって話だ。最高の警備員さんだよ。
👩🏻🦱 夫の友人であるそこの学芸員さんも、ケンちゃんをとても優しく扱っていましたよ。合掌。
👩🏻 猫に優しくしてくれたあの素敵な男性に祝福を! 本当に尊い!
🙍🏿♂️ 主人の帰りを待つあの犬みたいに、大切な記念碑になるべき話だね。日本の文化は素晴らしいよ。
👩🏻🦰 今頃は神道のいたずら好きな神様になってるわね。
👱🏼♂️ すべての猫は天国へ行くんだ。
👩🏻🦱 本当に悲しい日だわ。猫の天国で幸せにね。
🧔🏼♂️ 今頃、天国にあるすべての美術館を巡っているさ。
👨🏼🦳 虹の橋の向こう側では、扉は彼のために開け放たれているだろう。
😿 安らかに眠れ、ケンちゃん。君がいなくなって寂しいよ。愛してる、決して忘れない。
🧛🏻♀️ 安らかに、ケンちゃん。好きな絵画の下や、彫刻の腕の中で眠れますように。
👩🏻💼 美術館の敷地に埋葬してあげるべきよ。芸術へのあれほどの献身は報われるべきだわ。
🧑🏽 ケンちゃんが安らかに眠れますように。天国で家族と過ごし、楽しく遊んでいることを祈るよ。
👨 虹の橋の向こうにある美術館には、ケンちゃんも入れるといいな。
👴🏻 天使の膝の上で眠っているわ。本当に美しい猫だった……!
👱🏻♂️ 黒猫って実は最高なんだよね。
🧕 『永遠に記憶され、永遠に愛される』……。
コメントは以上になります。
世界中から寄せられたメッセージの数々からは、ケンちゃんがいかに深く愛され、その死が多くの人々に惜しまれているかが強く伝わってきます。
彼が生涯をかけて挑み続けた美術館への侵入が、一度だけでも叶ってほしかったと願う気持ちは、多くの人に共通するものでした。そのひたむきな姿や、警備員さんとの温かな交流は、国境や文化の違いを超えて、人々の心に深く響いたようです。
また、小さな命を排除するのではなく、優しく見守り続けた美術館や地域の人々の姿勢に対しても、温かい称賛が送られています。動物と人間が互いに尊重し合う姿に、理想的な共存の形を見た人も多かったのでしょう。
天国では何の制約もなく、自由に美術館を楽しんでほしいという人々の祈りは、きっと彼に届いているはずです。言葉は通じなくとも、優しさや思いやりの心は、確かに世界中の人々の心を一つにできるのだと、この物語は教えてくれているのかもしれませんね。

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